Hallの結婚定理(1)


 この記事ではHallの結婚定理の証明のうち、個別代表系(SDR)というものを用いた証明を扱います。

まず、Hallの結婚定理のステートメントを確認します。

Hallの結婚定理  X,Yを部集合とする二部グラフGにおいて、XからYへの完全マッチングが存在するための必要十分条件は、任意の A \subseteq Xに対して

 |\Gamma(A)| \geq |A| が成り立つことである。




頂点a について\Gamma(a)aに隣接する頂点の個数を指し、集合Xについて |X|\sum_{a \in A} \Gamma(a)を意味します。

今回はこちらのステートメントではなく、これと同値になる定理を示すことにします。

定理を紹介する前に導入すべき定義と、いくつか示しておくべきことがあるので、それを証明します。




定義1(Hall条件) Sを有限集合、 A_0,A_1,A_2,\ldots,A_{n - 1}をSの部分集合とする。任意の自然数k\leq nについてあるk個のA_{i_0},A_{i_1},\ldots,A_{i_{k - 1}}の和集合の要素数が少なくともk個であるとき、A_0,A_1,A_2,\ldots,A_{n - 1}はHall条件を満たすという。




定義2(臨界ブロック) 定義1と同じ条件のもと、あるk個の集合A_{i_0},A_{i_1},\ldots,A_{i_{k - 1}}であるとき、\{A_{i_0},A_{i_1},\ldots,A_{i_{k - 1}}\}を臨界ブロックという。




定義3(個別代表系) 集合A_i (0\leq i\leq n - 1)から要素a_iを一つずつ選ぶ。これらがすべて相異なるとき、a_0,a_1,\ldots,a_{n - 1}A_0,A_1,\ldots,A_{n - 1}の個別代表系(System of Distinct Representive, SDR)という。




以下、非減少整数列m_0,m_1,\ldots,m_{n - 1}に対して関数

F_n(m_0,m_1,\ldots,m_{n - 1}) = \prod_{i = 0}^{n - 1} (m_i - i)_{*}

を定義します。ただし(a)_{*} = max\{1,a\}とします。

また、\{m_i = |A_i|\}を非減少であるとします。




補題4 整数n \geq 1に対して写像 f_n : \mathbb{Z}^n \rightarrow \mathbb{N}

f_n(a_0,a_1,\ldots,a_{n -1}) = F_n(m_0,m_1,\ldots,m_{n -1})

で定める。ただし、m_0,m_1,\ldots,m_{n -1}a_0,a_1,\ldots a_{n -1}の順序交換で定められる非減少列とする。このときf_nは各a_iの非減少関数となる。




(証明)

f_n(a_0,a_1,\ldots,a_i,\ldots,a_{n - 1}) \leq f_n(a_0,a_1,\ldots,a_i + 1,\ldots,a_{n + 1})であることを示せばよい。

kを(m_k = a_iかつk = n - 1)または(m_k \lt m_{k + 1})を満たすindexとする。このとき、(a_0,a_1,\ldots,a_i + 1,\ldots,a_{n - 1})(m_0,m_1,\ldots,mi +1,\ldots,m_{n - 1})で与えられる。

ゆえに定義からF_n(m_1,\ldots,m_k,\ldots,m_{n - 1})\leq F_n(m_1,\ldots,m_k + 1,\ldots,m_{n - 1})である。


ここで、A_0,A_1,\ldots,A_{n - 1}の個別代表系の総数をN(A_0,a_1,\ldots,A_{n -1})とおく。


続きです。
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